羽黒山の五重塔と三神合祭殿

趣味の山歩きをしていると、その副産物として「すごいな、この建築!!」と心を打たれる瞬間にしばしば出会うことがある。山形県の羽黒山では、まさにその感覚を味わった。

 

一つ目の感動 ― 羽黒山の五重塔
国宝にも指定されている羽黒山五重塔。

 

その屋根は「杮(こけら)葺き」と呼ばれる伝統技法で仕上げられている。

 

杮葺きとは、サワラやヒノキなどの木を薄く小割りにして重ね合わせる葺き方で、手間が膨大にかかる反面、軽量で地震にも強く、さらに板材が雨を含んでも膨張して隙間を塞ぐため、優れた耐水性を発揮する。
しかも修繕の際には部分的な差し替えが可能で、理にかなった構法でもある。
近づいて初めて判る細やかな木肌の美しさは格別だが、遠景では目立ちにくいのが玉に瑕。しかしその「さりげなさ」こそが、深い森に佇む塔を引き立てているとも云える。
ちなみに、この技法は金閣寺や桂離宮など、数々の名建築にも採用されている。

 

二つ目の感動 ― 羽黒山三神合祭殿
もう一つ圧倒されたのが、羽黒山三神合祭殿はぐろさん さんじんごうさいでんだ。

 

こちらの屋根は、厚さおよそ2.1メートルという途方もない茅葺き(萱葺き)で覆われている。
その断面はまるで巨大な地層のようで、ただ見上げるだけで迫力に圧倒される。

 

茅葺きは「火に弱い」という弱点を抱えるが、厚みを持たせれば持たせるほど断熱性・耐水性・吸音性・通気性が飛躍的に高まる。
夏は涼しく冬は暖かく、しかも雨音をやわらかく吸収するという、日本の気候風土にきわめて適した屋根材である。

 

とはいえ、葺き替えには膨大な人手と熟練技術が必要で、維持管理は並大抵ではない。
だからこそ、こうして現代に残されている姿は貴重であり、文化財としての重みを肌で感じる。

 

五重塔の軽やかで繊細な木造技法と、三神合祭殿の重量感あふれる茅葺き。
対照的な屋根構法が、同じ山中にあること自体が稀有なことで、建築的にも見応え十分であった。
どちらも日本の伝統建築が培ってきた「素材を生かし切る知恵」の結晶であり、羽黒山の森にあることで、より一層の存在感を放っていた。

-アーキテクト

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