敷金

ブログを見て頂いている皆様の中には賃貸住宅にお住まいの方も大勢いらっしゃると思います。引越しするとなれば、これまで住んでいた住宅からの退去と次に住む住宅への転居が同時に起こる訳で、この時お世話になるのが不動産屋さんです。人それぞれ、様々な事情があって引越をするわけですが、この時数十万円から百万円近いお金が必要になります。決して少なくない金額ですから、賃貸人に預けていた敷金の返済を期待される方も多いのではないでしょうか。私もその一人なのですが、今回の引越で経験した敷金返済にまつわる出来事をお話ししたいと思います。

前の住居は賃貸マンションで、約10年間住んでいました。この間契約の更新は一度も行っていません。敷金は家賃の2ヶ月分で一般的な設定だと思います。私は、敷金とは家賃滞納時に補填する意味で「預けたお金」と考えていますので、滞納がなければ退去時には全額返済されるものと解釈しています。家主は、修繕費を差し引いて残金を返済或いは修繕費に全額充ててしまい敷金を返済しないことを当然と考えていたようです。これは、契約書に「退去時には原状回復の為の費用を賃借人(私)が負担する」と書かれていることを根拠にしているようです。10年前の契約書は大体こんな感じで書かれていますので、私の場合も退去後2週間を過ぎても何の連絡もありませんでした。
これでは泣き寝入りになってしまうので、早速仲介の不動産屋(以前の住居と今の住居、仲介業者が同じでした。これは幸運。)に行き、まずは私の考え方を説明し同時に家主はどうしたいのか問い合わせて貰うことにしました。不動産屋によると、私が住んでいたマンションの他の退去者にも敷金が返済されていないとのことでしたので、これは悪徳です。

この時すでに引越後1ヶ月が過ぎていました。しかも、修繕工事も行っていないし、次の募集もかけていないという有り様です。そこで、文書による敷金返済請求をしました。これは記録に残すことが重要だからです。まずは敷金を全額返済し、その後修繕費の内、私が支払うべき内容については立会による部位の確認と見積による金額の把握が必要であることを伝えました。また、原状回復の解釈についても今の社会的な考え方を説明しました。原状回復とは、賃貸開始時点と異なる形状にした場合に元通りにすることで、例えば、壁を撤去してしまったとか和室を洋室につくり替えたというような場合には壁や部屋の設えを元に戻すわけです。日常的な生活において起こり得る、仕上の傷み等に対する補修費用は、家賃設定において当然見込んでいることなので支払う必要はありません。
このようなトラブルは後を絶たないようで、行政もガイドラインや条例を定めて賃貸人、賃借人の責任範囲を明確にし、トラブル防止に努めるよう呼びかけています。(「東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例」平成16年10月1日施行)住宅の使用及び収益のための修繕は家主が、賃借人に帰する事由で修繕が必要になった場合は賃借人が負担する。これが原則です。

こういうやりとりの後、9月中旬に極僅かな金額が銀行に振り込まれました。当然納得できないので、直接家主に電話をし、真意を確かめました。家主いわく見積を取ったのでその金額を全額負担して欲しいとのことでした。見積書の内容を確認したところ、住戸内全ての壁仕上と床の大部分の仕上工事が見積もられていました。なんと横暴なと思いながら、その中で私が負担すべきは清掃費用だけであることを伝え、話し合いは決裂しました。恐らくは敷金の一部を返済しているから放っておこうと思ったのでしょう。その後1ヶ月近く(退去から約3ヶ月)が経っても何の音沙汰もないので、少額訴訟の裁判を起こす考えである旨を伝え(勿論文書で)、10月中旬に再度電話で話し合いを行いました。退去から3ヶ月が経っていますので、この話し合いで納得がいかなければ本気で裁判(簡易化されているとはいえ、裁判は裁判。面倒です。)を起こす覚悟でした。
その後家主からは、なんとか清掃費用と修繕費の一部を負担して貰えないかという申し出がありました。私としては、清掃費のみとしたかったのですが、10年間という賃借期間と更新をしていない点、そして早く決着させたいと考え始めていたことから申し出をのみ、結果総額5万円を負担することにしました。もう少し粘り強く交渉すれば、あと2万円程は下げられたのかもしれませんが、時は金なりです。相応の負担と考えて納得しました。

これが、事の次第なのですが、皆さんも住宅を借りる時には、“契約前”に退去時の対応(賃借人がやらなければならないこと)について十分話し合い、明文化しておかれると良いでしょう。日本では昔から家主を「大家さん」と言って、家主優位の契約がなされていました。行政も「契約自由の原則」があるため、相談に乗ってはくれても処分をすることは出来ないのです。結局、自分のことは自分で守るということなのですが、諦めず取り組むことが大切だと思います。現在住んでいる住宅の契約では、入居時に修繕工事を行わないでもらい、賃借人に於いて自由に仕上変更が出来るように、「退去時に原状回復はしない」ことを明記してもらいました。このように双方が合意して契約することが何より重要なのです。
あまりにも細かいことで気を使いながら生活するのは、「住居」の本質から掛け離れた行為ですから、もう少し居住者の自由を認めた契約があって良いと思います。何に対するお礼なのか「礼金」という意味不明のお金も払わなければならないことも(最近礼金を取らない物件も多い)、住居が過剰供給の時代にはそぐわないし、見直さなければならない多くのことが、この不動産業界には山積しているのです。
賃貸派のみなさん、どうぞ胸を張って不動産屋に出掛けて下さい。我々は「お客様」なのです。

-アーキテクト

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